オフショア開発とは?


オフショア開発とは、ソフトウェアやシステムの開発業務を海外企業や現地法人に委託する手法です。 “offshore”とは「岸から離れて」という意味で、これが転じてビジネス用語では「自国から離れた」つまり「海外」を表しています。 1980年代に開発費削減を目的として、主に中国で開発したのが始まりとされています。 その後、2006年前後にインド、ベトナムなどへ広がり、日本IT企業の約半数がオフショア開発経験があると言われています。
開発以外にもソフトウェアのテストやデータ入力、コールセンターなどのサポート業務を海外で行うケースも増えています。

オフショア開発需要の背景

日本では、IT人材の不足が2024年も深刻な問題となっており、特にデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するための高度な技術者の不足が顕著です。この人材不足は、急速に進むデジタル化に対して供給が追いつかないことが主な要因です。2025年以降、日本は最大で80万人のIT人材が不足すると予測されており、この問題は今後も拡大する可能性があります​。
具体的には、AI、データサイエンス、クラウド技術などの分野で高い専門性を持つ人材が求められている一方で、企業の多くはそのような人材を確保できていません。さらに、基幹システムを維持・運用するエンジニアも不足しており、新技術に限らず幅広い分野で人材難が課題となっています。
これに対し、日本企業は中途採用の積極化や新卒採用の条件改善、リスキリング(再教育)による既存人材の能力向上に力を入れていますが、効果が限定的であり、長期的な視点でのIT人材の育成と教育改革が不可欠とされています​。
全体として、IT人材の不足は企業の競争力やデジタル化の進展に大きな影響を及ぼしており、特に中小企業や地方の企業では深刻さが増しています。政府や企業の双方での対策が急務とされています。

日本企業のオフショア開発への取り組み

日本企業は、IT人材不足への対策としてオフショア開発の活用を加速させています。2024年には、特にベトナム、インド、フィリピンなどのアジア諸国が人気の委託先として注目を集めています。これらの国々は、高い技術力とコスト効率を持ち、日本の開発チームを補完する重要なリソースとなっています。特にベトナムは、日本語を話せるエンジニアの数が増加しており、日本企業にとって非常に協力しやすい環境が整っています。
また、ニトリホールディングスのように、ベトナムにオフショア拠点を設立し、現地でのエンジニア採用を強化している企業も増えています。ニトリは最終的に1,000名規模のチームを目指しており、自社のシステム開発を内製化する計画です。これは、スピード感を持って開発を進めるための戦略であり、企業が競争力を高める一環として注目されています。
インドも引き続き人気の委託先であり、特に高度な技術力を必要とするプロジェクトにおいて利用されることが多いです。AIやIoTといった最先端技術を活用する企業が増え、オフショア開発がDX推進の一環として積極的に導入されています。
このように、日本企業はコスト削減だけでなく、リソース確保や技術力強化を目的に、オフショア開発を活用し続けていますが、プロジェクトの成功には言語や文化の違いを考慮した管理体制が不可欠となっています。

ベトナムが人気な理由

1980年代からオフショア開発は中国から始まりました。しかしながら中国の経済成長と共に中国人エンジニアの人月単価は上昇し続けオフショア開発の当初の目的である「コスト削減」という目的は難しくなってきました。
そこで注目されたのはインドやベトナムです。特に日本が目を付けたのはベトナムでした。元々ベトナムは親日家が多く勤勉な国民性を持っていて日本語を勉強する人が多くいました。さらにはベトナムは国を挙げてIT人材を育成する国策を取っていたため毎年若いエンジニアが数多く輩出されるなど条件が揃っていました。
また、ベトナムは、近年急速にIT人材を育成しており、優秀な技術者が多く存在します。ベトナムのエンジニアは、AIやIoT、クラウドコンピューティングなどの先端技術に対応できるスキルを持っており、これが日本企業にとって大きな魅力です。
時差も少なく(2時間)、人件費も安い事から現在の日本のオフショア開発は約半分がベトナムで行われています。
近年、ベトナムでの経済成長と共にベトナムエンジニアの人件費の高騰と日本の円安が相まってコスト削減が厳しくなってきたとも言われますが、長く日本のオフショア開発を担ってきた技術力とそれでもまだコストメリットは日本の2/3程度で済む事からまだまだベトナムの人気は続くと言っていいでしょう。
地政学的に見た場合のベトナムに関しても政情の不安定なミャンマーやバングラデシュより安定しており事業継続性は高いと言えます。

オフショア開発のメリット・デメリット

メリット1
コスト削減
オフショア開発では、労働コストが低い国の開発者を利用することで、人件費を抑えることができます。特に、先進国に比べて物価や賃金が安い地域での開発は、全体的なプロジェクトコストの大幅な削減に繋がります。
人月単価(万円) プログラマー シニアエンジニア ブリッジSE PM
中国 50.51 (+20.00%) 61.79 (+18.68%) 79.29 (-6.48%) 92.14 (+7.43%)
ベトナム 40.22 (+26.75%) 49.13 (+23.20%) 57.73 (+12.44%) 79.38 (+37.00%)
フィリピン 35.83 (-1.15%) 53.33 (+7.46%) 81.25 (+14.32%) 70.83 (+7.60%)
ミャンマー 27.47 (+12.25%) 54.16 (+42.96%) 68.33 (+40.63%) 97.50 (+55.23%)
バングラデシュ 44.13 (+48.90%) 46.13 (+16.38%) 90.96 (+30.62%) 58.63 (+27.27%)
インド 50.83 (+46.41%) 68.75 (+33.34%) 94.29 (+38.72%) 111.43 (+32.81%)

2023年オフショア開発先国別の人月単価(職種別) ※オフショア開発ドットコムより

メリット2
現地エンジニア活用と将来性
地元で開発者を確保できない場合、オフショアチームを活用することで、必要な人材を迅速に確保することができます。
上流工程は日本側での自社コントロールが必要ですが、協力会社や下請け企業に委託していた開発、テストフェーズ、保守・運用フェーズを内製し、自社開発領域の幅を広げ、利益率向上と、将来的なオフショア開発や規模拡大の実現を目指すことを可能にします。
メリット3
技術力の利用
オフショアの国々には、専門的なスキルや技術に特化した開発者が多数存在することがあり、自社にないリソースを利用することが可能です。
デメリット

コミュニケーションの課題
言語や文化の違いがコミュニケーションの障害となることがあります。プロジェクトの進行がスムーズでない場合、誤解や認識の違いが発生することがあります。
品質管理の難しさ
地理的な距離や時間差のため、プロジェクトの進行状況をリアルタイムで監視したり、品質をチェックすることが難しくなる場合があります。品質が安定しないこともあるため、特に最初の段階で慎重に選定する必要があります。
セキュリティリスク
オフショア開発では、知的財産や機密情報が海外のチームと共有されることになるため、情報漏洩やセキュリティのリスクが高まる可能性があります。