はじめに
こんにちは、プロダクトデザイングループの1000zakiです。
普段は事業部から依頼のあったバナーや販促ページといった制作物の設計確認の他、デザイナーが作成した制作物のチェックなどを行っています。
今回は、日ごろの業務のなかで触れる機会が多いバナー設計について、去年までグローバル事業部で発注側の業務を行っていた経験も踏まえてお話ししたいと思います。
立場が変わって見えたもの
私が行っていた発注側の業務としては、主にセールやプロモーションのバナーの依頼がありました。その中でも夏セールやクリスマスセールなどの売り上げが期待できる大型セール用のバナーの発注時には、よりカッコいい、雰囲気のあるデザインのバナーを作成してもらうため、設計にも気合が入っていました。
といっても、デザインのことについて詳しくないため、参考資料として夏っぽい雰囲気の画像を探してきて夏らしさを強調したり、バナーに盛り込む文言を考えて仮組みをするぐらいのものでした。
しかし、グローバル事業部では全世界向けにサービスを展開しているため、一言で夏と言っても国によって様々な様相を呈します。例えば、日本の夏と言えば海やヒマワリ、青空と入道雲といったイメージですが、チェコやオーストリアなどの海のない国では緑が生い茂った山のイメージであったり、フィリピンやタイなどの一年中温暖な気候の国々では「夏」という概念が日本人が持っているそれとは異なっていると考えられます。
そのため、ただ単に夏らしいイメージをバナーに落とし込むのではなく、1人でも多くのユーザーが夏らしさを感じられるバナーを目指した設計をしなければいけません。また、受注側になった今では、本来設定すべきバナーの要件はそもそも「夏らしさ」ではなく、価格の「安さ」や年に数回の大型セールであることの「限定感」に重点を置くべきなのではないかという考えもあります。
そして、バナーに盛り込む文言についても、大きいサイズのバナーだけを考慮してしまうと、他のサイズに組み込む際に文字量が多すぎたり必要な要件がどれなのか分からなくなってしまいます。これは商品画像を使用する際も同様で、縦長の商材ばかり選んでしまうと横長のバナーを作成する際に商材の画像を縮小しなければならず、その場合小さすぎて何の商品か分からなくなってしまうことがあります。また、バナー背景の色と商材の色の相性が悪かったり、ブランド名や商品説明が無いとモノだけ見てもよく分からない商品などもあり、バナーに使用する商材の選定は発注側で人気商品だからとか、売れる商品だからという数字的に考えていたときよりも複雑で、考慮すべき点が多いことに気付きました。
バナー設計時の落とし穴
vol.1となる今回は、発注者がバナー設計を行う際に陥りがちな落とし穴について説明したいと思います。
バナーイメージの伝えかた
自分の中にあるイメージを正確に伝えたいがために、素材とツールを駆使して自力でバナーの正確なイメージ図を作ってしまった経験はありませんか?
発注者側の視点で見ると、詳細なイメージ図を制作側に渡すことは、自らが持つイメージを正しく伝えられることでイメージ通りのバナーを納品してもらうことができ、制作側としてもデザインを考える必要が無く、確認時の戻しや修正が発生する機会が少なく工数負荷が少ないWin-Winな依頼方法だと捉えがちです。
しかし、裏を返すと発注者側のイメージを超える「良いデザイン」を作り出す可能性を無くしてしまっているとも言えます。また、イメージ図を作成するという慣れない作業をするため、発注者側の工数が多くかかることで設計の完成が遅くなり、後の工程の遅延や本来行うべき業務に悪影響を及ぼす可能性があります。
加えて、バナーは1サイズだけではなく複数サイズを作成する場合が多いため、細長かったり小さいサイズのバナーを作成する際に、文言や商材などの要素を削ったりレイアウトを変更する作業が必要となります。しかし、理想のイメージ図を作り上げることに注力し過ぎてしまうと、文言や商材の優先順位といった本来発注者側が考慮すべきである部分が疎かになってしまうことがあります。その結果、設計の戻しや修正作業が発生して後の工程がさらに遅延し、両者ともに工数を浪費することになります。
また、バナーデザインをビジュアル最優先にしてしまうことで、本来見せるべき商材を載せるべきスペースが減ってしまったり、本来訴求したい内容の本質が見えなくなってしまい、バナーとしての意味が無くなってしまうこともあります。
例えば、「お祭り」のイメージを出し過ぎてしまったせいで、本来訴求すべきだった「値下げ」のイメージを失うことになる場合です。「お祭り」というイメージにはワクワク感があると思いますが、そのワクワク感とバナーに載せる商材やプロモーションの内容が見合っているのかという本質的な部分を考慮しなければなりません。もしプロモーションの内容が「値引き」ではなく、期間中に商品を購入すると何かを貰える、抽選で代金をポイント還元するなどの特典であれば、「ワクワク感」を演出し、バナーのクリック率を上げられるかもしれません。
このように、見た目が良く、発注側としては依頼通りの内容のバナーであっても、本質を逃してしまってはユーザーの反響や売上に繋げることはできません。また、発注側の視点から見ると一見Win-Winに思える依頼方法でも、実際にはLose-Loseな状況になってしまうことがあります。
バナーイメージを上手く伝えるには
具体的な見え方にこだわると自己満足になってしまいがち。では、どうするべきでしょうか?
共通認識を持つ
バナー発注を成功させるうえで重要なことは、発注側と制作側で共通認識を持つことです。
最初に共有すべき事項の例としては、
・バナーや、そのリンク先で「何を感じとって欲しいのか?」と言う目的を書いておく
・バナーに組み込む文言や使用する素材などを事前に決定し、あらかじめ優先順位をつけておく
・バナーの大小にかかわらず同じ内容の文言を使用できるように短文・長文の両方用意する
・最も伝えたいことや大事にしたい文言を選定する
などの言語化することが容易なものが挙げられます。
また、販促系のバナーであればターゲットが誰なのかを明確にしておくことで、バナーの雰囲気や構成要件を制作側がイメージしやすくなります。
上記内容の共有を行ったうえで、言語化が難しいレイアウトやビジュアル面を詰めていきます。
例えば、
・発注者側が持つイメージに近いバナーを他社事例や以前発注したバナーからピックアップして共有する
・デザインの印象(高級感がある、夏っぽさがあるなど)をイメージ写真やイラストを例に挙げて伝える
などが該当します。
このように、写真やイラストで言語化が難しい部分を補完することによって、より正確なイメージを制作側に伝えることが可能になります。また、バナーイメージを自作するよりも効率的で、さらに複数のイメージを提案することでデザインの幅を広げる事ができます。
共通認識を持つことによりバナーの主軸となる部分は不変でありつつもデザインの自由度を確保することが可能となり、発注者が思いつかなかったレイアウトやビジュアルの提案ができる関係性を築くことができます。また、デザイナーが培ってきた経験や知見を活かし、見た目の良さだけでなく実際のユーザーに訴求できる、クリック率が高いバナーを提案することも可能となります。
目的を明確にする
バナーの目的は大きく分けて3種類あります。これらの目的をバナー設計の際に意識することで、ターゲット層のユーザーがクリックする確率を上げる事ができます。
1.イメージを訴求する
「ワクワクさせる」「びっくりさせる」「新しいものとして認識させる」などがこれに当たります。
イメージを訴求するバナー作成時の留意点としては、「あの人気商品がこの価格で!」というイメージを推す場合、実際の商品と価格の表示が必要です。加えて、対象の在庫が潤沢にあるのか、価格の変動が無いのか、対象のユーザーがその商品を実際に購入できるのかなどの点にも注意する必要があります。
また、「こんな便利な機能が登場!」というイメージを押す場合には、対象となる地域やユーザーは十分多いのか、もし一定のユーザー層のみが対象となるのであれば全体に提示する必要性について考慮しなければなりません。
2.ページへ誘導する
ユーザーをページに誘導するには、「困っていそうなことを解決させる」「知らないことを知らせる」「すぐに探したくさせる」バナーが必要です。
しかし、バナーで提示している内容の条件に合致する商品一覧やページに正しく誘導することが可能かという点で注意が必要です。例えば、検索条件と絞り込みと並べ替えを駆使してもリンクを生成することができない場合や、各種条件を満たしていないユーザーでは結果が正しく表示されない場合、別途ページを作成する必要があることを考慮しなければなりません。
3.理解を深める
「前から存在は知っていたけど自分とは関係ないと思っていた」ことに対して当事者意識を持たせるためのバナーです。
主にサービスの露出や新規ユーザーの獲得が目的になると思いますが、新サービスや利用者数が少ないサービスでは、需要の喚起をどう行うかが非常に難しい課題となります。
例えば、「新機能登場!〇〇〇〇(サービス名)」のようにサービス名を前面に打ち出したバナーを作成してしまうと、サービスの当事者である発注者側としては意味やメリットなどが連想できるものの、何も知らないユーザーとしては自分にとって利益があるものなのかが理解できないため、クリックをしないという判断をされてしまいます。そのため、サービス名が認知されているか、名称だけでサービスの内容が想像できるものかという部分を考慮することが重要で、場合によってはユーザーメリットや機能に関しての説明など、サービス名以外の面を押し出したバナーを作成することを視野に入れる必要があります。
まとめ
ここまでバナーの上手な発注方法についてお話してきましたが、残念ながら絶対的に正しいバナーの発注方法は存在しません。案件内容や対応者など、その時々によって正解となる方法は変わってきます。
しかし、必要な要件をあらかじめ定めておくといった基本的な部分を抑えることで発注側と制作側の間に齟齬が生まれる可能性を下げることが、デザインに関してもデザイナーが作業しやすい環境を整えることになり、両者ともに効率的に業務を進める事ができます。その結果、発注者側はバナーに載せる文言の精査や、プロモーションを行うターゲットの絞り込みといった本来の業務に集中することが可能となり、制作側もプロとしての知見を活かし、訴求力の高いバナーを作成することが可能となります。
バナーを発注する際には、是非このブログの内容を思い出していただき、円滑なバナー作成をしていただければと思います。